出国前日はいつも忙しい vol.5 現地の色彩に溺れるための、ベーシック

ばたばた、バタバタ。あれが足りない、これも足りない。出国前日は、どうしてだかいつも忙しい。こう、ゆったり、しんなり、と「もう荷造りなんて、終わったわ」という風に、余裕を持って出国前夜に、紅茶を淹れられたことがない。

まず向かうタイは、30℃を超えると聞いている。その次に向かうスリランカは、予報によると32〜34℃が最近の平均気温のよう。まだ10℃を切る日がある東京の日々に比べたら、真夏、といっていい。というか正真正銘の真夏だ。

持っていく洋服は、寝る時に着るコットンのワンピースを含めて、たった3着、4着程度だった。薄くて軽くて、乾きやすい、その全て。足元はムーンスターのブラックのハイカットに、久しぶりに新調したサヌークの「ヨガスリング」という黒地に明るい紫のサンダル、そして海やビーチ用の黒のビーサン。リュックはミレストのグレー。スーツケースは無印良品の35リットルのブラウンを選んだ。サコッシュは最近いつも連れて行くKELTYの黒。

私は、旅先ではいつもカラフルを身に纏う。身に纏いたいと思っている。けれど「用意されたカラフル」ではなくて、「現地の色彩に溺れたい」と思っているから、日本を発つ時に持つアイテムは、ベーシック、と決めている。そんなに厳格な、ルールではないのだけれど。

旅立つ時の荷物は、少なければ少ない方が、余白があっていい。余白はあればあるほど、「知らない私」を連れてくる。予想の範囲内の出来事なんて、要らない。旅先で求めるものは、「まだ見ぬ日々」。固定概念なんて捨ててしまえばいい。「あれもこれも」と持っていくほど、無粋なことはないと思う。

とはいえ、快適に暮らすため、次の一手を仕掛けるためのあれこれは必要で、私は信頼しているデザイナーの友達が教えてくれたwacomのペンタブレットを買ったり、ずっと眠らせておいたGoPro5の自撮り棒を、そっと買い足したりしていた。届いたamazonの箱、そっと開けて、いつもの荷物に潜らせる。

「出発だ」と考える。久しぶりのひとり旅。パスポートに、お金の用意、いつもの電子機器の武器を持って、充電器を携えて。それさえあれば、あとは何がいるだろう? 必要なもので今手元にないのは、マルチプラグ。これだけは明日、早朝だけれど空港で買い足さねば。この小さな家のどこかに、眠っているのは知っているのに、どうしてだかさっきから見つからない。

そわそわ、する、と思った。昨夜は楽しい話をしすぎて、よく眠れなかった。眠い目こすりながら、荷物を詰めて、眼鏡越しに世界を見て、そうだコンビニでお金をおろしておかなくちゃ、と思い出す。

ばたばた、バタバタ。今回は、「私を見つめてきたかった」。世界を旅し始めて、初めて自分のラベルを探しにいく。そんなことしても無駄だよ、世界中探しても、自分なんていないんだ、と2016年2月の私は言っていた。

“自分なんて、世界のどこを探してもいないよ。どこまで遠くに行っても、知らない世界を見ても、どんなに知らない踊りを踊っても、自分なんてものはみつからない。(引用:世界一周バージン喪失の第一歩|伊佐知美|note)”

けれどそれでも。しん、とした世界の中、美しく濃い緑と青い空、夏の風に吹かれながら、触れてきたい想いがあった。物理的な移動をしなければ、大切なことの把握さえもできない。どうしようもない性癖の自分に呆れてしまいそうになる。

明日の今頃には、タイ・バンコクの夜の風に吹かれて、古性のちと、どこかでタイ料理でも食べているのだろうと想像する。旅に出るのだ。スーツケースのチャックを「じりりり」と締めたら、その先に道ができる。まずは眠らなければ。朝5時半の電車に乗らねば、私の飛行機は私を乗せずに、旅立ってしまう。

なんとなくだけれど、脈絡はないけれど、最近、少しずつ動き出そうと決めたことで、「私は結局、私を追求していくしかないのだ」と諦観に似た、覚悟ができたような気がしてる。